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『サムライ・ポテト』

 最近ネットのニュースかなにかで見たことをネタに日記を書いていたのだけど、だんだんとみんな社会が悪いんやみたいな内容になってきて、なんだか嫌になったので、さくっと全削除して、気分を変えてひさしぶりに読書感想文なんぞを記してみようかと思ってみる。

 というわけで、そんな前段とはなんのかかわりあいもなく『サムライ・ポテト』です。片瀬二郎の短編集です。
 しらない人もいるかと思うので一応記しておくけれど、作者の名前は「かたせにろう」と読みます。
 この人、今から十何年か前にENIXエンタテイメントホラー大賞の長編部門の大賞を受賞してデビューした人で、受賞作の『スリル』、受賞後第一作の『チキン・ラン』という二冊の本が出ています。著者紹介によれば、この本はそれ以来ということになります。
 その当時、僕は『スリル』も『チキン・ラン』も読んでいて、読んではいるのだけれど、どんな話だったかはほとんど覚えていなくて、読みなおそうにも肝心の本がどこにあるのかも判然としない状況なのですが、思いだせるのは、人の皮をかぶった緑色の生命体だとか、メッセージを伝える仕組みを組みこまれた仲間の生首がホテルに送りつけられるシーンといったいくつかの断片と、差しこむ方向が逆じゃないのと感じられた『スリル』の透明プラスチックのケースとかくらいなものだったりします。いや、それ以上に印象に残っているのは、ひたすらに濃度の高い(密度ではなく濃度だと思う)くどいくらいの文章で、その奇妙でまとわりつくような文章にさいなまれつづけたというイメージが強く残っている。
 そんなわけだから、一編目の表題作を一目見た瞬間に、「普通の文章だ」とびっくりしてしまったのです。
 二編目の『00:00:00.01pm』は、かつての文章のような雰囲気を持ってたんですけど、この本の中ではむしろこの一編のほうが異質な感じ。
 収録されている五編みんな、どんな内容なのかを一言で表わすと、「自我をもってしまったロボットの話」とか「時間が制止した世界の話」とか「スペースコロニーにくらす宇宙移民の話」といった感じで、とっても古典的なSFのようです。そして、書かれている物語も古式ゆかしいというか折り目正しいというか、そんな雰囲気だったりします。いや、けなしているのではなくてですね、だからこそ落ち着いて読めるし、それゆえ面白いっていう話です。そして、構成もきちんと整っていて、姿勢がいいなと感心するくらいにキレイです。
 センスオブワンダー的な驚きはあまりないですけど、五編とも本当に面白かった。ていうか、最初の『サムライ・ポテト』で打ちのめされてしまいました。そして、そのまま読み終えてしまった。
 買ってから一週間ほどで小説を読み終えたのってものすごくひさしぶりな気がする。

 あ、そうそう。内容とは直接関係ないんだけど、帯文が大森望と池澤春菜っていうのが、この本が今のSFだって如実に表してる感じですよね。

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