読書感想文

どうでもいいことだけど思い出したので記しておく

 先月読んだ「偶然の聖地」の中に、解体子(デストラクタ)葬というものがでてくる。架空の弔い方である。
 ものすごく雑に説明をすると、故人にまつわる全てを葬る葬送で、葬儀が終わると個人にまつわる全てが記憶からも消えてなくなっているというもの。
 人によって受け取りかたはそれぞれあるだろうと思うのだけれど、個人的には理想的な最期だと思う。
 ということを感想に書き忘れたことを不意に思い出したしだい。
 わざわざ後から追記するほどのものでもないような気もするけれど、それなりに印象的だったこともあって一応。

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『サムライ・ポテト』

 最近ネットのニュースかなにかで見たことをネタに日記を書いていたのだけど、だんだんとみんな社会が悪いんやみたいな内容になってきて、なんだか嫌になったので、さくっと全削除して、気分を変えてひさしぶりに読書感想文なんぞを記してみようかと思ってみる。

 というわけで、そんな前段とはなんのかかわりあいもなく『サムライ・ポテト』です。片瀬二郎の短編集です。
 しらない人もいるかと思うので一応記しておくけれど、作者の名前は「かたせにろう」と読みます。
 この人、今から十何年か前にENIXエンタテイメントホラー大賞の長編部門の大賞を受賞してデビューした人で、受賞作の『スリル』、受賞後第一作の『チキン・ラン』という二冊の本が出ています。著者紹介によれば、この本はそれ以来ということになります。
 その当時、僕は『スリル』も『チキン・ラン』も読んでいて、読んではいるのだけれど、どんな話だったかはほとんど覚えていなくて、読みなおそうにも肝心の本がどこにあるのかも判然としない状況なのですが、思いだせるのは、人の皮をかぶった緑色の生命体だとか、メッセージを伝える仕組みを組みこまれた仲間の生首がホテルに送りつけられるシーンといったいくつかの断片と、差しこむ方向が逆じゃないのと感じられた『スリル』の透明プラスチックのケースとかくらいなものだったりします。いや、それ以上に印象に残っているのは、ひたすらに濃度の高い(密度ではなく濃度だと思う)くどいくらいの文章で、その奇妙でまとわりつくような文章にさいなまれつづけたというイメージが強く残っている。
 そんなわけだから、一編目の表題作を一目見た瞬間に、「普通の文章だ」とびっくりしてしまったのです。
 二編目の『00:00:00.01pm』は、かつての文章のような雰囲気を持ってたんですけど、この本の中ではむしろこの一編のほうが異質な感じ。
 収録されている五編みんな、どんな内容なのかを一言で表わすと、「自我をもってしまったロボットの話」とか「時間が制止した世界の話」とか「スペースコロニーにくらす宇宙移民の話」といった感じで、とっても古典的なSFのようです。そして、書かれている物語も古式ゆかしいというか折り目正しいというか、そんな雰囲気だったりします。いや、けなしているのではなくてですね、だからこそ落ち着いて読めるし、それゆえ面白いっていう話です。そして、構成もきちんと整っていて、姿勢がいいなと感心するくらいにキレイです。
 センスオブワンダー的な驚きはあまりないですけど、五編とも本当に面白かった。ていうか、最初の『サムライ・ポテト』で打ちのめされてしまいました。そして、そのまま読み終えてしまった。
 買ってから一週間ほどで小説を読み終えたのってものすごくひさしぶりな気がする。

 あ、そうそう。内容とは直接関係ないんだけど、帯文が大森望と池澤春菜っていうのが、この本が今のSFだって如実に表してる感じですよね。

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虚構推理を読みました。

 というわけで、城平京さんの『虚構推理 鋼人七瀬』を読みました。ので、珍しく感想なぞを書いてみるしだい。

 本格ミステリ大賞受賞なんていうから、どうなってしまったのだろうと思っていたのだけれど、相変わらずだったんでほっとしました。
 キャラ造形や配置、異能のありよう、かけあいの具合、クライマックス部のたたみかけ方、人を食った設定でありながら原理主義とさえ思えるほどに理に寄って(依って)いるところ、果ては時おり混ざるノイズまで、城平京はやっぱり城平京だったぞと。
 ここまできたら、誤解を恐れず乱暴に言いきってしまってもいいかと思う。この作品は、「スパイラル」の同工異曲だと。
 そうそう。高橋留美子の人魚シリーズを事前に読んどくと入りやすいかなと思ったり思わなかったり。

 しかし、去年が「隻眼の少女」で今年がこれってことは、そういう賞……ていうか、投票者の嗜好がそういう傾向にあるってことなんでしょうかね。

 さらに話は脱線した余談になるのだけど。はじめて城平氏に会った頃、ちょうど僕は「ジャムの真昼」を読んでいて、何故だかその印象が強く残っているんです(多少なりと話題にしたのかもしれない)。それに加えて今回の受賞だもんで、受賞者二人の名前が頭の中で近しい場所に刻みこまれてしまった感じがあったりします。脳内本棚で著作が入っている場所は遠く離れてるんですけど。

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『ウは宇宙船のウ』

 錫って冷たいわね。歳月のしみこむ毛孔がないの。

 というわけで、レイ・ブラッドベリの短編集『ウは宇宙船のウ』を読みました。
 とても端正な作品群で、よんでて非常に心地よかったです。さすがに、今となってはこんなシンプルな話は書けないなっていうのはあるものの、ある種の理想ですね。
 とかいいながら、「霜と炎」みたいな作品もあるわけでね。濃密ですよ。
「タイム・マシン」の最後の数行だけが理解できず引っかかっているんですけど。
 いや、楽しかった。

 このまま邦題で苦しさの見える二冊目の短編集へとなだれこみたいところですが、7月のための最低限の勉強として二冊の本を先に読まねばならぬのでした。私は本を読むのが遅いので二冊も読むとなるとひと月くらいはかかってしまうのです。

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本の前では一読者であるといいわけしながら

 タイトル下に作家などと偉そうに記している身で、誰かの書いた本をああだこうだと述べるのはどうだろうと思わなくもないけれど、その辺りは厚顔無恥でいこうかと開き直るしだい。
 あくまで読書感想文であります。

 などと、くだくだいいわけがましい前文をおいて感想を書くのは、永嶋恵美著「W――二つの夏」です。

 昨夜読みおえました。
 奥付を見ると発行日が二月一日となっているので一月発売の本ですね。半年以上ほったらかしていました。いや、別に夏が来るのを待っていたわけではありません。たまたまです。
 感想を一言で述べるなら、「セリ萌えの小説である」かと。
 ものすごく語弊があるいいようだけれど、彼女の存在が全体の手触りを柔らかくしているのは間違いない。物語の根幹をなすあれやこれやを引っ張りだして並べると、やっぱりこの著者の本質ってこういうところだよねって思うのだけれど、セリがそれをうまく覆い隠してる感じ。
 いや、まあ、作品自体が、ほかの作品に比べるといくらかマイルドなのだとも思うけど。
 あんまり細かなことを書くと、作品のネタを割ってしまうことになる(帯文ですら危ういこと書いてる気がするくらい)ので、これ以上は書けない。
 ということで、以下はどうでもいい雑感。

 どうにもナナミが好きになれなかった。「者」なんて語を使ってしまうあたりがたぶんその原因(というか、象徴的な事象)。

 僕は別段雷の多い地域に住んでいたことはない(と思う)のだけれど、稲光から雷鳴までの間隔を数える。今も。癖になってるんじゃないかしら。
 きっかけが何かははっきりとは思いだせない。学校で習ったんだったか。教育番組で見たんだったか。最近、天気予報の最中に豆知識的にそんな話をしているのを見かけたし、幼いころに似たようなものを見たのかもしれない。

 卵って臭いする?

 なにはともあれ、面白かった。夏の暑さを感じながら読むのがおすすめ。

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